LOGIN 前田たちを見送った
夜の山には虫の声が絶え間なく響いている。木々の隙間から差し込む月明かりが獣道を淡く照らし、彩葉は三頭の白狐を従えながら軽やかに山道を駆けていた。
荼枳尼も普段は里に住んでいる、大倭帝国の公民である。ただ、完全肉食という習性もあり、狩りのために野山を翔けることは珍しくはない。
流石に人間を狩ろうものならば捕まるわけであるが。
やがて山腹の開けた場所に建つ小さな木造の小屋へ辿り着く。軒先には干した獣皮や燻製肉が吊るされ、狩人の住処らしい匂いが漂っていた。
「おや、彩葉、狩りの成果はどうだった?私は猪を三頭しとめて、それからそこにいる青龍をいけどりにしたよ。」
小屋の隅の檻を指しながら彩葉の狩猟仲間で姉貴分の荼枳尼である
檻の中では、全長二メートルほどの青龍が長い身体をくねらせながら格子へ何度も体当たりして暴れている。青い鱗が囲炉裏の火を受けて鈍く光り、尾が床を叩くたびに檻全体がガタガタと揺れた。
「出せ!おぼえてろよ!」
バタバタと叫ぶ青龍に彩葉が訊く。
「名前は何て言うのかい?」
「
「あら、可愛い。」
「言うな!これでも大倭帝国の青龍族の長・
「他人じゃない。」
禹菜が口を挟むと彩葉もツッコむ。
「なんでそんなよい血統なのにこの山をうろうろして捕まるの?」
「ひ、暇だったからだ……。」
「高等遊民ということかい?」
彩葉は容赦なかった。
広海は長い胴をばたつかせ、尾で床を叩いて抗議したが、反論できない。龍の顔をしかめて唸ってみせても、二人の荼枳尼はまるで意に介していなかった。
「ところで彩葉は何を狩った?」
「獲物は鹿一頭だけだけど、もっと面白いものを見つけたよ。仙人さ。」
禹菜の耳がぴくりと動いた。
「おい、仙人を狩ったのか?青龍はともかく仙人を殺すのは国法で禁止されているぞ?」
「俺を殺すのも違法だよ!
広海のツッコミは無視される。
「捕まえてはいないさ。ただね、その仙人というのが若い男の子の素王なんだよ。」
「ほう。素王って、女の子と聞いたけど?」
「多分、違法に召喚されたもう一人の素王だろうねぇ。面白くなってきたよ。」
「そういえば皇太子の夫を素王にしようという動きがあったね、確か。」
「ああ、確かにそれかもしれないね。」
「ならそいつ、容姿はどうだった?」
「平凡だねぇ。」
「仙人だの人間だのが考える恋愛というのはよく分からんな。顔が良くなくても夫にしたいのかね。」
荼枳尼は女性しかおらず、他の人類との間に子供を作るが基本は恋愛はなく性愛だけの生物である。
況してや、夫婦で暮らす概念のない生物に政略結婚など理解は困難だ。
「仙人どもは血筋や霊格だの何だのと言って騒ぐ生きものだからね。私たちとは価値観そのものが違うのさ。」
「私たちは腹が満たされて、毎日楽しく狩りができれば十分だものね。」
「権力なんて食べても美味しくないしねぇ。」
禹菜のその言葉を聞いて頷くように彩葉は言った。
「姉貴の言う通りだよ。どうなるにせよ、仙人たちが権力闘争をして私たちが損をすることはない。」
「それでなんでお前たちは俺を捕まえてるんだよ!」
無視されていた広海が叫ぶ。
「ああ、ごめんごめん。ちょっと趣味だよ。」
禹菜が言う。
「趣味?」
「姉貴はね、強い生きものを捉えるのが好きなの。きちんとキャッチアンドリリースするから安心しな?」
「だけどこいつ、あんまり弱いからやっぱり龍の肉の鍋にした方が――」
「やめろぉぉぉぉっ!俺は食材じゃない!青龍だ!」
「冗談だよ。」
広海は長い身体を縮こまらせ、青い鱗を小刻みに震わせた。龍の顔が見る見るうちに青ざめていく。
「姉貴、怖がらせ過ぎだよ?」
「悪い悪い。じゃあ彩葉、こいつを放流してあげて?」
「わかったよ。」
彩葉は軽々と龍の入った檻を持ち上げ、小屋の外へ運び出す。鉄製の檻には広海が入っているにもかかわらず、その足取りは驚くほど軽かった。亜人の中でも荼枳尼の身体能力は際立っている。
夜風が山肌を吹き抜ける。
彩葉は檻を地面へ下ろすと錠前を外した。
「あ、そうそう。私たちは魔王側の人間ではないから、もし素王なり政府の偉い人なりに今後会ったらそのことはきちんと伝えるんだよ?」
広海は恐る恐る檻から長い身体を這い出させる。翼を畳みながら外へ出ると、龍の首を何度も縦に振った。
「ああ、魔王よりも理不尽な奴がこの山の庵にいると伝えておくよ。」
憮然とした様子で広海は言うと、大きく翼を広げた。
青白い鱗に覆われた龍体が地を蹴り、夜風を巻き起こしながら夜空へ舞い上がる。月明かりを浴びた鱗が銀色に輝き、長い尾をなびかせながら山々の向こうへ飛び去っていった。
彩葉はその姿を見送り、小さく笑う。
「元気があってよろしい。」
そう呟くと、白狐たちを引き連れて再び小屋の中へ戻っていった。
彩葉は、山を駆け抜けた異世界の匂いを忘れてはいなかった。
同じ頃、飛天宮―― それは贅を尽くした建物だった。 紫檀の柱、絹の衝立、翡翠を埋め込んだ床、香炉から立ちのぼる甘い香り。 召喚されたばかりの異世界人を迎えるには、あまりにも豪奢だった。 だが綾子は、その贅沢に飲まれてはいなかった。 綾子は寝台の上に腰を下ろし、扉の前に立つ泰鳳を冷ややかに見ていた。謁見の間で大王に一歩も引かなかった男も、今は綾子の許可なく一歩も近づけない。「だから!」 綾子は言った。「寝室に勝手に入らないで!」 泰鳳は困った顔をしていた。 総漢国の鳳凰たちを率いる若き実力者にして、謁見の間では尚英大王を相手に一歩も引かなかった男。 その泰鳳が、今は一人の女に完全に押されている。「誤解だ。」 泰鳳は言った。「同衾しようという話ではない。護衛と聖別後の状態確認のために、近くに控える必要がある。」「同じ部屋に男がいる時点で却下。」「私は鳳凰だ。」「男の姿をしているでしょう?」 綾子は即答した。「それに、あなたが鳳凰だろうと何だろうと、初日から寝室に入ってくる時点で論外!」 泰鳳は言葉に詰まった。 彼にとっては合理性の問題だった。 召喚した素王の安全を守る。 綾子の霊力の流れを確認する。 そのため近くにいる。理屈は通っているはずだった。 だが綾子にとって、理屈以前の問題だった。「私、育ちのよい男にしか興味ないの。」 綾子は寝巻きの襟元を正しながら言った。「初対面で女の寝室に入ろうとする男は、どれだけ偉くても育ちがよいとは言わない。」 泰鳳の眉がわずかに動く。「そもそも初対面ではなく数日前に召喚してから一緒にいるはずだが。」 怒りではない。 困惑だった。「変わらないわ?付き合ってもいない男と寝ろと?」「同衾など求めていない。私は礼を失したつもりはない。」「失している側はだいたいそう言うわ。」 綾子の声は冷たい。「それに私には杏麟がいる。あなたが近くにいる必要はない。」 その時、廊下から楽しげな声がした。「その通りですわ!」 扉の外に立っていた杏麟が、するりと中へ入ってきた。 泰鳳と共に佐藤綾子を召喚した張本人の女性麒麟。 柔らかな笑みを浮かべているが、その目は泰鳳に勝ち誇っていた。「泰鳳殿には申し訳ありませんけれど、綾子様のお部屋は私が見ます。」「杏麟。」 泰鳳の声が
そのまま夜が深くなると、庵の中は一層静かになった。 静かになると余計に色々な物音に意識が向く。山の虫の声、薪のはぜる音、遠くの梟の鳴き声がきこえてくる。 前田は筵の上に座り、薄い毛布を見つめていた。 昨日は疲れ果てていたから気にならなかった。 だが今夜は違う。 庵は狭い。 寝床は三人分あるが、かなり近い。 華麟も美凰も女性の姿をしている。 もちろん二人は人間ではなく、麒麟と鳳凰だ。生物としての感覚も、人間とは違うのだろう。 だが前田から見れば、美しい女性二人と同じ空間で寝ることに変わりはない。「あの……。」 前田は遠慮がちに言った。「二人とも、私と同じ部屋で寝るのは平気なんですか?」 華麟がきょとんとした。「平気ですけど?」 美凰も当然のような顔をする。「何が問題だ?」「いや、私の世界では、男女で寝る場所を分けることが多かったので。」 そう言いつつも、二人の女性が平気だというと男としては何か一線を越えた感覚になる。「変わった文化ですね。」 華麟は本気で不思議そうだった。「主君を守る者が、主君から離れて寝たら危ないじゃないですか。」「合理的にはそうですけど。」「それに私たち麒麟や鳳凰は、人間ほど性別で生活を分けません。」 華麟が説明する。「雌雄はあります。でも、人間社会みたいな男女の距離感とは違うんです。」 美凰も頷く。「お前は正式に聖別を受けた主君だ。寝食を共にすることに不自然はない。」「なるほど。」 前田は分かったような、わからないような顔をした。 文化や種族の違いは理屈では理解できる。 しかし感情はそう簡単に追いつかない。ただ、美女と寝れるのは何とも都合のよい展開を想像してしまう。「前田様が嫌なら、私たちは小さな動物に変化して隅で寝ますよ?」 華麟が提案した。「華麟は小動物になったら余計にくっつくだろう。」 美凰が言う。「な、なんで分かるんですか!」「分かる。」「美凰、ひどい!」「事実だ。」 前田は思わず口走った。「それなら……左右から守ってもらえたら、少しは安心して眠れそうですけど」 庵の空気が止まった。 薪がぱちりと鳴る。 華麟の顔がゆっくり赤くなる。「だ、抱き――」 声が裏返っていた。 美凰は背を向けたまま固まっている。 耳が赤い。 前田はすぐに後悔した。
夕暮れには、三人とも庵へ戻った。 夕食は山菜粥だった。 木の実をすり潰したものと、塩漬けの山菜が入っている。質素だが、疲れた体にはありがたい。 食事の間、美凰は異種族について説明した。「この世界には人間以外の人類がいる。」「荼枳尼みたいな?」「そうだ。」 前田は白狐と荼枳尼の女を思い出した。 仙人の肉は食べたことがある――あの声が、まだ背中に残っている。「荼枳尼は完全肉食の人類だ。女性しか生まれず、他種族と交配して子を成す。知能と霊力は人間より高い。他種族を食料と見なす習性があるが、帝国法では人を殺すことは禁じられている。」「禁じられていなければ食べる?」「そういう個体も多い。」 美凰は淡々と言った。「夜叉は人間と同属別種。体力と霊力に優れ、見た目は人間に恐怖を与えやすい。乾闥婆は角と翼を持つ別属の人類で、知能と芸術的感性が高い。完全菜食だ。」「妖怪、ではないんですね?」「違う。」 美凰の声が少し強くなる。「人類だ。帝国の法の下で暮らす公民でもある。外見や生態が違うからといって、討伐対象ではない。」 華麟も頷いた。「だから、魔王討伐でも相手を見極める必要があります。魔王側についた成仙や勢力もいますけど、異種族だから敵というわけではありません。」「なるほど。」 前田は粥をかき混ぜながら考えた。 もしこの世界を普通の冒険物の感覚で見れば、夜叉や荼枳尼を「モンスター」扱いしてしまうかもしれない。 だが、それは違う。 彼らには社会があり、法があり、文化がある。 荼枳尼の狩場で命の危険を感じたのは事実だ。 それでも種族全体を敵にしていい理由にはならない。「明日以降の訓練では、実戦よりも接触の作法を教える。」 美凰が言った。「接触の作法?」「異種族、地方官、山の寺社、仙人の庵。お前はこれから多くの相手に会う。剣を抜く前に、相手が何者かを判断できなければならん。」「戦う訓練ではなく、交渉の訓練ですか。」「そうだ。」 華麟がにこりと笑う。「魔王討伐も、実際には交渉や調略が大事なんです。全部を力で解決しようとした素王は、だいたい失敗しました。」「そりゃそうでしょうね。」「交渉、懐柔、買収、離間、婚姻工作――」 華麟が指折り数える。 美凰が呆れた目で見る。「全部言う必要はない。どうせ魔王討伐は建前だ。」
「ほう、そんなことを素王が?」 小室民部卿滋野朝臣通衡は枝野利久からの報告に戸惑いと同時に興味を示した。 民部省の奥にある卿の執務室は、外の喧騒から少し切り離されたように静かだった。 壁際には帳簿が積まれ、机の上には各地から上がってきた租税の報告書が広げられている。香炉からは薄い煙が立ち上り、墨と紙と香木の匂いが混ざっていた。 小室通衡はその書類の山の向こうで、枝野をじっと見ている。「はい、閣下。間接税等というのはあまりにも突拍子もないアイディアです。」「突拍子もない、か。」「はい。少なくとも律令の本来の体系からは外れます。」「だが、租庸調の上乗せを続けるよりは筋がよい。」「筋がよい、ですか?」「民が耕すほど奪われると思えば、田は荒れる。だが売買に応じて税を取るなら、少なくとも耕作そのものを罰する形にはならぬ。」「しかし、商人どもが黙って従うとは思えません。」「黙らせるのが民部省の仕事だ。」「それはまた随分と乱暴な。」「乱暴ではない。徴税だ。」 小室民部卿は楽しそうに笑った。 その笑みは穏やかだったが、枝野には少し怖く見えた。官僚というものは、民の負担を論じているときほど、妙に冷静になることがある。「では閣下はこの間接税導入を前向きに検討されるということですか?」「そうだな。何しろ租は不作の時は取れないが、その間接税とやらはどんな時でも取ることができる。少なくとも都市部の人間は買い物をせずに暮らすことはできないからな。租庸調の減税の代わりに間接税とは、よい考えではないか。」「ふ、不作の時も?」 ふと枝野は佐藤綾子が「安定財源」という言葉を使っていたことを思い出した。「問題はそこだ。民への説明では、租庸調を本来に戻す減税と言えばよい。」「実際には都市から恒常的に取るわけですね。」「都市は金が動く。金が動くところから取るのは当然だ。」「わかりました、閣下。確かにその案ならば大王殿下も呑むかもしれません。」「はっはっはっ、大王殿下とその佐藤綾子素王とが仲良くしてくれたならば、我々にとっては願ってもない展開であるな。」「そうですね。泰鳳らによる反乱への牽制にもなりましょう。」 そう表向きは言いながら枝野は心中穏やかではない。(不作のとき
そのころ、前田は実技の演習をしていた。 といっても、最初から派手な仙術を使うわけではない。 美凰が用意したのは、木剣と縄と石だった。「まず体を動かす。」「霊力じゃなくて?」「霊力は体を通る。体が使えなければ霊力も使えない。」 美凰は当然のように言う。「まずは走れ。」 そこから数時間、前田は山の中を走らされた。 いや、走るというより、転びながら進んだ。 斜面を登り、沢を渡り、倒木を越える――足場の悪い山道を何度も往復する。 元の世界の前田なら十分で倒れていたはずだ。 だが、今の身体は違った。 息は上がり汗も出るのは変わらない。 しかし、転んだときの痛みを足に感じながらも、不思議と動ける。 前田は体力に自信がある方ではない。会社では同僚がジムに行くと聞いて「よくそんな苦行ができるもんだな」と思ってきたぐらいだ。 そんな前田が、息切れしているのになぜか走れる。苦しいはずなのに、走ることが出来ている。 昨日までと同じ身体のはずなのに、限界だけが遠ざかっている。「純仙の肉体は人間より頑丈だ。」 美凰が横から言う。「正式な聖別を受けたことで、霊力の流れも安定している。お前が思っているより体は動く。」「すごいですね、これ。」 前田は肩で息をしながら言った。「元の世界だと運動は全然駄目だったのに。」「調子に乗るな。」「はい。」「だが、悪くない。」 美凰が小さく言った。 前田は顔を上げる。「今、褒めました?」「事実を言っただけだ。」 華麟が横から笑う。「美凰の褒め言葉ですよ、それ。」「黙れ。」 その後、霊力の基礎訓練に入った。 これは肉体訓練より難しかった。身体を使えばよいわけではないからだ。 美凰は「丹田に意識を置け」という。 華麟は「大地の流れを感じてください」という。 前田は混乱しながらも座って、腹式呼吸を整え、内側の温かさを探る。 感覚は、かつて経験した禅寺の坐禅に近かった。 前田はかつて、短期間だが坐禅を経験したことがある。雑念を捨てろと言われても、捨てようとするほど雑念が湧いた。足が痺れ、背中が痛み、時間ばかり気になった。 だが今は違う。聖別を受けたせいか、自分の内側に細い流れがあることが分かってきた。 それは水脈のようでもあり、呼吸のようでもあった。まるで空気ではなく宇宙を吸って丹田
総漢国飛天宮―― 泰鳳が大王との謁見を終えて佐藤綾子と杏麟の待機する飛天宮に行くと、綾子は図書寮から借りてきた本の山と格闘していた。 飛天宮は、大王宮の奥に設けられた迎賓用の宮である。名の通り、梁や欄干には天女や鳳凰が飛ぶ彫刻が施され、磨かれた床には昼の光が淡く反射している。 しかし、その優雅な部屋の中央には、優雅さとは程遠い光景が広がっていた。 机の上には本が積まれ、床にも木簡や巻物が広げられている。筆と墨、紙片、綾子が書きつけた覚書が散らばり、まるで官庁の一室をそのまま持ち込んだようだった。 綾子はその中心で、片手に本を持ち、もう片方の手で紙に何かを書き込んでいる。「これはいったい……?」 泰鳳は思わず立ち止まった。「仙術から政治、生態系、天文、さらには庶民の暮らしまで、知りたいことは全て確認されているようですわ。」 杏麟が笑顔で言う。「一日でか?」「正確には半日ほどですわ。」「半日で図書寮を荒らしたのか。」「荒らしてはおりませんわ。必要なものをお借りしただけです。」「借りた量ではないだろう。」「綾子様には必要なのです。」「必要なら何でも通ると思っているのか。」「素王ですもの。」「それはそうなのだが……。」 泰鳳にとっては確かに喜ぶべき事態だ。 だが、胸の奥には小さな警戒が生まれていた。 綾子の吸収速度は、想定を超えていた。異世界から来た人間は、まず生活習慣や身分制度を覚えるだけで精一杯のはずである。 それなのに彼女は、すでにこの国の税と法と官制へ手を伸ばしている。「それに綾子様は税制改革の案もすでに作られましたわ?」 そう言って杏麟は一枚の紙を見せる。 ひらがなやかたかなは泰鳳には理解できない。 仙人や麒麟、鳳凰、四神らはあくまでも相手の言葉の意味を理解する能力が発達した結果、翻訳魔法を使







